釣具専門店の最大手として知られる「上州屋」が、近年、相次いで店舗を閉店。
なぜ閉店する店舗が増えているのか、またオンラインショップがない背景についても調査しました。
上州屋の閉店ラッシュ理由やオンラインショップないのはなぜ?

「釣りを始めるなら、まずは上州屋へ」と言われるほど、長年にわたり多くの釣り人に親しまれてきた上州屋ですが、ここ数年で「閉店」の知らせを耳にする機会が増えました。
寂しさを感じる一方で、その背景には様々な理由が隠されているようです。
物価や人件費、家賃等の高騰のため
まず考えられる大きな理由として、お店を運営するためのコストが全体的に上がっていることが挙げられます。
上州屋に限った話ではなく、多くの小売店が直面している厳しい現実なのです。
近年、電気代や原材料費が上昇し、商品の仕入れ価格も高くなっています。
また、スタッフを雇用するための人件費や、店舗を構えるための家賃も上昇傾向にあります。
以下の厚生労働省のグラフでもわかるように基本的に最低賃金は右肩上がりで、利益を圧迫していたと考えられます。

(出典:厚生労働省)
釣具店は、長い釣竿や大きなクーラーボックスなど、かさばる商品を多く扱うため、広い売り場スペースが必要となります。
そのため、家賃の上昇は経営に直接的な打撃を与えることになります。
都市部の店舗では、再開発計画によって立ち退きを余儀なくされるケースもあり、2018年に閉店した渋谷店は、渋谷駅周辺の再開発計画が直接的な原因でした。
| コスト項目 | 具体的な影響 |
|---|---|
| 地代・家賃 | 広い売り場が必要なため、家賃高騰の影響を大きく受けます。都市部の再開発も閉店の一因です。 |
| 人件費 | 最低賃金の上昇に伴い、店舗スタッフを維持するためのコストが増加しています。 |
| 光熱費・仕入れ費 | 電気代やメーカーからの仕入れ価格の上昇が、店舗運営の利益を圧迫する要因になっています。 |
釣り人口の減少のため

趣味やレジャーが多様化した現代では、若者を中心に釣り以外の魅力的な選択肢がたくさんあります。
また、少子高齢化の影響で、新たに釣りを始める若い世代が減っているという側面も考えられます。
釣り業界全体が、長期的に見ると縮小傾向にあるという見方もあるのです。
もちろん、コロナ禍においては、屋外で楽しめるレジャーとしてアウトドアブームが起こり、一時的に釣りへの関心が高まりましたが、そのブームが落ち着いた後、どれだけの人が釣りを趣味として継続しているかが、今後の市場規模を左右する重要なポイントになります。
さらに、釣り人のニーズが細分化・専門化していることも、上州屋のような「総合釣具店」にとっては難しい課題となっており、特定の魚種(ブラックバスなど)や釣り方(ルアー、フライフィッシングなど)に特化した専門店が登場。
熱心なファン(マニア)はそちらに流れる傾向があります。
一方で、釣りをたまに楽しむライト層やファミリー層は、100円ショップ(ダイソーなど)やホームセンターで手に入る安価な釣具で十分と考えることも増えています。
上州屋は「専門性を求めるマニア層」と「手軽さを求める初心者層」の両方から、他の業態に顧客を奪われるという厳しい状況に置かれていると言えます。
| 顧客ターゲット | 直面する課題 |
|---|---|
| ベテラン・マニア層 | 特定のジャンルに特化した専門店の深い品揃えには及ばず、物足りなさを感じさせることがあります。 |
| 初心者・ファミリー層 | ホームセンターや100円ショップで販売される、より安価な入門用セットとの価格競争に晒されます。 |
| 若者層 | キャンプや登山など、他のアウトドアレジャーとの間で、休日の過ごし方やお金の使い方の選択肢を巡って競合しています。 |
スクラップ&ビルド戦略による経営資源の集中のため

閉店のニュースが続くと、どうしてもネガティブな印象を受けがちですが、実はこれ、上州屋が意図的に行っている前向きな経営戦略の一環である可能性が高いためです。
これは「スクラップ&ビルド」と呼ばれる戦略で、古くなったり、売上が伸び悩んだりしている小規模な店舗(スクラップ)を閉鎖する一方で、その地域のより良い立地に、駐車場を備えた大型の新店舗(ビルド)をオープンさせる手法。
つまり、単に店舗を減らしているのではなく、経営資源をより将来性のある店舗に集中させ、会社全体としての競争力を高めようとしているのです。
例えば、2024年には愛知県内にあった複数の店舗を閉店させ、その代わりに豊橋市に新たな大型店「豊橋小向店」をオープンさせる計画を発表しました。
また、茨城県でも土浦店を2025年3月に閉店する一方で、近隣のつくば市に「新つくば店」を2025年4月にオープンさせています。
地域の釣り人を切り捨てるのではなく、より快適で品揃えの豊富な店舗に顧客を誘導し、満足度を高める狙いがあると考えられます。
| 戦略の側面 | 詳細 |
|---|---|
| メリット | 経営資源を将来性のある大型店舗に集中させ、運営効率と収益性を高めることができます。 |
| デメリット | 閉店した店舗の近隣に住む顧客にとっては利便性が低下し、一時的な顧客離れのリスクがあります。 |
| 戦略の狙い | 店舗を大型化・集約することで、品揃えを拡充し、顧客体験を向上させることが主な目的です。 |
本当に閉店ラッシュなの?過去に閉店した店舗例
以下は、判明している近年の主な閉店店舗のリストです。
これを見ると、全国各地で店舗の整理が進められていることが分かります。
・2025年9月30日:上尾店 閉店
・2025年8月31日:三郷店 閉店
・2025年8月31日:秋田店 閉店
・2025年3月9日:土浦店 閉店
・2024年7月頃:愛知県下の全店閉店を発表(豊橋への大型店集約のため)
・2024年6月30日:名古屋中川店 閉店
・2024年3月24日:熊谷佐谷田店 閉店
・2023年10月31日:東久留米前沢店 閉店
・2023年10月31日:新座店 閉店
・2023年10月22日:座間店 閉店
・2023年10月22日:横浜十日市場店 閉店
・2021年10月31日:鵜沼店 閉店
・2018年10月31日:渋谷店 閉店
・2017年7月以前:館林店 閉店
多くの店舗が閉店している一方で、前述の通り、移転リニューアルオープンや、複数の店舗を統合した形での大型新規出店も積極的に行われています。
したがって、単に事業が縮小している「閉店ラッシュ」というよりは、店舗網を再構築している「戦略的再編」と捉えるのがより正確な見方かもしれません。
オンラインショップないのはなぜ?
Amazonや楽天市場をはじめ、多くの小売業がオンラインショップ(ECサイト)に力を入れる中、なぜ上州屋は本格的な自社ECサイトを運営していないのでしょうか。
これには、釣具という商品の特性と、上州屋の経営戦略が深く関わっていると考えられます。
第一に、実店舗での「体験価値」を重視している点が挙げられます。
釣り竿は、実際に手に取って振ってみないと、その硬さや重さのバランス(調子)が分かりません。
リールも、ハンドルを回した時の滑らかさ(巻き心地)を確かめたいと思うのが釣り人の心理です。
こうした「触ってみないと分からない」というニーズに応えるには、実店舗が不可欠なのです。
また、「この釣り場ではどんな仕掛けがいいの?」といった相談に専門知識豊富なスタッフが応えたり、地域の最新釣果情報を交換したりするコミュニケーションの場としての役割も、オンラインでは代替しにくい価値だと言えます。
第二に、利益率と物流の課題があります。
オンライン通販は価格競争が非常に激しく、送料無料が当たり前になりつつあるため、十分な利益を確保するのが難しいビジネスモデルです。
釣具には釣竿のような長くて壊れやすい商品や、活き餌のように品質管理が難しい商品も多く、これらを全国に配送するための物流網を構築・維持するには莫大なコストがかかります。
こうしたリスクとコストを考慮し、不得意とされる通販事業への本格参入を見送っている可能性があります。
その代わり、上州屋は公式アプリの提供に力を入れていて、単に商品を売るのではなく、会員証としてポイントを貯めたり使ったりできる機能や、各店舗からの入荷情報・イベント情報を配信する機能が中心です。
オンライン(アプリ)で顧客との接点を持ち、オフライン(実店舗)への来店を促す「OMO(Online Merges with Offline)」と呼ばれる戦略です。
オンラインで完結させるのではなく、あくまで主役である実店舗を盛り上げるためのツールとしてデジタル技術を活用しているのです。
向いている人
これまでの情報を総合すると、上州屋は次のような人にとって、非常に頼りになる存在だと言えるでしょう。
- 釣りを始めたいけれど、何から揃えればいいか全く分からない初心者
- 専門的な知識を持つスタッフに相談しながら、自分に合った道具をじっくり選びたい人
- 釣行予定のエリアについて、最新の釣果情報やおすすめの仕掛けを教えてほしい人
- カタログスペックだけでは分からない、竿の曲がり具合やリールの質感を実際に触って確かめたい人
- 活き餌や氷、消耗品の買い足しなど、釣りに出かける直前に必要なものをすぐに手に入れたい人
Q&A
- 上州屋のギフト券はオンラインで買えますか?
いいえ、上州屋のギフト券はオンラインでは購入できません。全国の上州屋の店舗にて、現金でのみ販売されています。購入を希望される場合は、お近くの店舗のレジでスタッフの方に直接お申し付けください。クレジットカードなど、現金以外での購入はできないので注意が必要です。
- 閉店したお店で買った商品の修理やメンテナンスは、どうなりますか?
閉店した店舗で購入した商品のアフターサービス(修理や部品の取り寄せなど)は、近隣の営業している上州屋の店舗が責任を持って引き継いでくれます。例えば、過去に渋谷店が閉店した際には、新しくできた渋谷東口店や新宿店、池袋店などが、取り扱い品目に応じて引き継ぎ先として案内されました。お困りの際は、最寄りの店舗に相談してみてください。
- 上州屋の公式アプリって、ポイントカード以外にどんなメリットがあるんですか?
ポイントカードとして使えるのはもちろん便利なのですが、このアプリの最大のメリットは「お気に入り店舗」を登録できる機能だと思います。よく行く店舗を登録しておくと、そのお店だけの限定入荷情報(人気のルアーが入荷した!など)やセールのお知らせ、スタッフが更新する釣果情報などがプッシュ通知で届くようになります。特定の釣り場に頻繁に通う人にとっては、他では得られないリアルタイムな情報源として非常に価値が高い機能なのです。
- 「スクラップ&ビルド」は分かるけど、昔からあった個人経営の釣具屋さんを閉店に追い込んでおいて、自分たちも撤退するのは無責任では?という声も聞きますが…。
大型チェーン店である上州屋が出店したことで、地域に古くから根ざしていた個人経営の釣具店が競争に敗れて閉店し、その後、上州屋自身も戦略上の理由でその地域から撤退してしまうと、結果的にその地域から釣具を買える場所がなくなってしまう「買い物難民」問題が発生する可能性があります。これは、チェーンストアが地域経済に与える影響の難しい側面であり、上州屋の戦略が、地域によっては負の結果をもたらしてしまうこともある、というのは事実だと思われます。
- 最近の上州屋の品揃えは、昔と比べて変わりましたか?「ルアー専門店みたいになった」って本当ですか?
そのように感じている長年の釣りファンは少なくないようです。かつての上州屋は、へら鮒、鯉、投げ釣り、磯釣り、渓流釣りなど、あらゆるジャンルの釣具が揃う「釣具のデパート」のような存在でした。しかし、時代の流れとともに、特に人気の高いバス釣りやシーバス、エギングといったルアーフィッシング関連商品の割合が増え、それ以外のジャンルの品揃えが手薄になったと感じる店舗があるのは事実です。これは、より多くの人に支持され、売上につながりやすい商品を優先するというマーケティング戦略の結果と考えられますが、昔ながらの多様な釣りを愛するファンからは「昔の面影がなくて寂しい」という声が聞かれることもあります。








