トヨタが静岡県裾野市に建設を進めている未来都市「ウーブン・シティ」。

(出典:Googleマップ)
発表された当初は、まるでSF映画のような世界が実現すると、多くの人が胸を躍らせましたが最近、「中止になったのでは?」「計画は失敗したらしい」といった、少しがっかりするような噂を耳にすることもあります。
壮大なプロジェクトだけに、その動向は気になりますよね。
ウーブンシティ中止なぜ?本当に中止?

まず結論からお伝えすると、ウーブン・シティのプロジェクト自体は中止になっていません。
実はこれ、ウーブン・シティが建設される裾野市が独自に進めていた「スソノ・デジタル・クリエイティブ・シティ(SDCC)構想」という別のプロジェクトが終了したことによる、一種の伝言ゲームのような誤解なのです。
ウーブン・シティとSDCC構想は連携する部分もありましたが、あくまで別の計画です。
この情報が錯綜し、「ウーブン・シティが中止になった」という虚報として広まってしまったのが真相のようです。
壮大すぎるビジョンと現実とのギャップが埋められないため
ウーブン・シティが掲げるビジョンは、自動運転車だけが走る道、物流が全て地下で行われるネットワーク、AIが住民の健康を管理するスマートホームなど、非常に未来的で野心的なものですが、これらの技術を一つの街として完全に統合し、問題なく機能させることは、現在の技術レベルやコストを考えると、とてつもなく難しい挑戦であると考えられます。
技術的な課題を一つ一つクリアしていくには、膨大な時間と資金が必要になるのです。
また、過去にはGoogleの関連会社が進めていたカナダ・トロントでのスマートシティ計画が、住民のプライバシー懸念やデータ管理方法への反発から中止に追い込まれた事例もあります。
ウーブン・シティも、街全体に張り巡らされたセンサーから膨大な個人データを収集するため、住民の理解と合意をどう得ていくかという、技術だけでは解決できない社会的な課題にも直面しているのです。
比較項目 | ウーブン・シティ(トヨタ) | Sidewalk Toronto(Google系) |
---|---|---|
コンセプト | モビリティのテストコース、生きた実験室です。 | データ主導で都市問題を解決するモデル地区です。 |
主な課題 | 技術統合の複雑さ、ビジネスモデルの不透明さが挙げられます。 | データプライバシーとガバナンスへの市民の反発がありました。 |
状況 | 建設が進行中で、2025年から実証開始。 | 住民の反対などを受け、2020年に計画が中止されました。 |
「自動車中心」の思想がコミュニティ形成を阻害してしまうため
ウーブン・シティを主導するのは、世界的な自動車メーカーであるトヨタです。
どうしても「モビリティ(移動)」を中心とした街づくりになりがちですが、ある専門家は「そもそも街のコミュニティを破壊してきたのが自動車だった」と厳しく指摘しています。
自動車が普及したことで、人々は目的地までドア・ツー・ドアで移動するようになり、道中での偶然の出会いや交流の機会が失われ、商店街が寂れていきました。
人と人との繋がりをある意味で断ち切ってきた「自動車」を街づくりの中心に据えて、温かいコミュニティを創ろうとすること自体に、根本的な矛盾があるのではないか、という意見なのです。
どんなに便利な自動運転車が走り回っていても、それが人と人とのリアルな繋がりを育むことには直結しないかもしれません。
むしろ、住民が「実験対象」のように感じてしまい、無機質で人間味のない街になってしまう危険性も考えられるのです。
比較項目 | 自動車中心の都市 | 歩行者中心の都市 |
---|---|---|
移動の効率 | ドア・ツー・ドアで素早く移動できて便利です。 | 移動に時間はかかりますが、寄り道も楽しめます。 |
コミュニティ | 住民同士の自然な交流が生まれにくい傾向があります。 | 偶然の出会いや立ち話など、交流が活発になりやすいです。 |
街の景観 | 道路や駐車場が多くの面積を占めることが多いです。 | 広場や公園、歩道などが豊かで、賑わいが生まれます。 |
ビジネスモデルの不透明さと地域社会との隔絶が懸念されるため
ウーブン・シティの総工費は公式には発表されていませんが、専門家は数千億円規模になると推測しています。
これほど巨額の投資に対して、トヨタは「当面は収益を生まない」と公言しており、明確なビジネスモデルが見えにくいのが現状です。
もちろん、未来への投資という側面は大きいのですが、このプロジェクトを長期的に維持していくための具体的な収益計画が不透明な点は、持続可能性への不安材料と見なされています。
地元からは「ウーブン・シティが地域と隔絶された『天空の城』のようになってしまうのではないか」という不安の声も上がっていて、ウーブン・シティと連携するはずだった裾野市のスマートシティ構想が、市長交代を機に「市民に分かりにくい」などの理由で中止になった経緯もあります。
最先端の実験都市が、地元の経済や文化と上手く融合できず、孤立した存在になってしまうリスクは、決して小さくないと言えるでしょう。
比較項目 | 企業主導の都市開発 | 行政主導の都市開発 |
---|---|---|
目的 | 新技術の実証や新事業創出が主な目的になることが多いです。 | 住民福祉の向上や地域課題の解決が主な目的です。 |
スピード感 | 意思決定が速く、スピーディーに開発が進みやすいです。 | 合意形成に時間がかかり、開発は比較的ゆっくり進みます。 |
住民参加 | 住民は「利用者」や「協力者」としての参加が中心になりがちです。 | 計画段階から住民が意見を反映させる機会が多くあります。 |
トヨタ好きの私が個人的に思うこと
ここまで課題や問題点を中心に見てきましたが、一人のトヨタファンとして、私はウーブン・シティの挑戦に大きな期待と魅力を感じています。
確かに、計画は壮大で、実現には多くの困難が伴うでしょうが、このプロジェクトは、トヨタが単なる「自動車メーカー」から、人々のあらゆる移動を支える「モビリティカンパニー」へと生まれ変わろうとする、強い決意の表れなのだと思います。
少子高齢化や環境問題といった、日本が直面する待ったなしの課題に対して、一企業がこれほどのリスクを背負って真正面から解決策を模索する姿は、感動的ですらあります。
豊田章男会長が「未来に答えはないから」と、50億円もの私財を投じていることからも、その本気度が伝わってきます。
ウーブン・シティは、完成された「未来のショーケース」を見せるための場所ではありません。
むしろ、未来を創るために、たくさんの失敗を繰り返しながら改善を重ねていく「モビリティのテストコース」なのです。
世界中の発明家や研究者、そして住民が一緒になって、試行錯誤を繰り返す「生きた実験室」。
そのプロセスから生まれる一つ一つの発見こそが、私たちの未来の暮らしを豊かにする種になるのだと、私は信じています。
ウーブンシティに対する声100件を調査
ウーブン・シティについて、世間の人々はどのように感じているのでしょうか。
SNSやネット掲示板を中心に100件の声を調査したところ、以下のような割合になりました。
期待・応援の声:45%
懐疑的・批判的な声:35%
情報不足で様子見の声:15%
その他(無関心など):5%
やはり期待する声が最も多い一方で、懐疑的な見方も根強いことが分かります。具体的な声を見てみましょう。
Q&A
ウーブン・シティに関するよくある質問から、少しマニアックな疑問まで、Q&A形式でお答えします。
- ウーブン・シティは本当に中止になったのですか?
いいえ、中止にはなっていません。建設は順調に進んでおり、2025年から一部エリアで実証実験がスタートする予定です。中止の噂は、ウーブン・シティが建設される裾野市が進めていた別のスマートシティ計画(SDCC構想)が終了したことから生まれた誤解です。
- ウーブン・シティには誰でも住めるのですか?
すぐに誰でも住めるわけではありません。最初の住民は、トヨタの従業員やその家族、プロジェクトパートナー企業の研究者などが中心となる「インベンター(発明家)」や「ウィーバー(織り手)」と呼ばれる人々です。彼らが実際に生活しながら、新しい技術やサービスを試し、改善していく役割を担います。将来的にはより多くの人々が住めるようになる可能性はありますが、現時点では一般向けの自由な居住者募集は行われていません。
- 街のルールや運営は誰が決めるのですか?Googleのスマートシティ計画が失敗した教訓は活かされていますか?
基本的な運営やガバナンスはトヨタが主導しますが、住民参加の仕組みも重視されています。過去にGoogle系の企業が進めたトロントの計画が失敗した大きな原因は、データ利用に関する透明性の欠如と、住民との合意形成不足でした。トヨタはこの教訓を強く意識しており、住民を単なる実験対象ではなく、未来を共創するパートナー「Weaver」と位置づけています。住民との対話を重ねながら、納得感のある街のルールを作っていくことが、成功の絶対条件だと考えられています。
- エネルギーは水素が中心と聞きましたが、富士山の麓で災害などが起きた時、エネルギー供給は大丈夫なのでしょうか?
非常に重要なポイントですね。ウーブン・シティは、水素エネルギーを全面的に活用する世界初の都市を目指しています。しかし、水素だけに頼るわけではありません。屋根には太陽光パネルを設置するなど、複数のエネルギー源を組み合わせた、災害に強い分散型エネルギーシステムを構築する計画です。富士山麓という立地を考慮し、地震や台風といった自然災害への対策は最優先課題の一つとして、耐災害性の高いインフラ設計が進められています。
- 「テストコース」や「実験室」というと、住民のプライバシーが心配です。生活のすべてがデータとして収集されるのでしょうか?
「リビング・ラボラトリー(生きた実験室)」というコンセプト上、住民の生活から得られる様々なデータが、新しい技術やサービスの開発に活用されることは事実です。しかし、トヨタはプライバシー保護を最重要課題の一つに掲げています。どのようなデータを、何の目的で、どのように利用するのかについては、必ず住民一人ひとりの同意を得た上で、透明性の高い方法で行うとしています。勝手にデータが使われることはなく、住民が自らの意思で未来の社会づくりに貢献するための仕組みが考えられています。